2017.7.27
*患者満足度調査を行います
21世紀の中小調剤薬局の経営戦略
著作:医薬品等研究会調剤薬局研究グループ(無断転載を禁じます)
医薬品等研究会、調剤薬局研究グループでは、21世紀の調剤薬局の経営戦略をテーマに、調査・研究を実施し、報告書としてまとめました。
なお、この研究事業は、中小企業診断協会東京支部、平成14年度「支部における調査・研究事業(経営戦略工学研究センター(マスターセンター)補助事業)」として、実施されたものです。
目 次
医薬分業の動向、転換期を迎えている医薬分業、調剤薬局をめぐる外部環境、調剤薬局の特性と内部環境の変化、患者の意識の変化
調剤薬局のSWOT分析、調剤薬局の顧客価値、中小調剤薬局の経営戦略とポ ジショニングストアコンセプトの確立、経営戦略の策定、地域医療ネットワークへの参画
顧客戦略の考え方、標的顧客、調剤サービスの付加価値、調剤サービスの提供方法、調剤薬局薬剤師に求められるカウンセリング技法
調剤業務オペレーションの見直しのすすめ、調剤業務の標準化・効率化・質・機能の向上、調剤業務の安全性向上、医薬品在庫管理の適正化、効率化
収益性向上策について、円滑な資金調達のために
経営者としてのマネジメント、人材の育成、人材確保
調剤薬局におけるコンピュータ利用、調剤薬局支援システム、今後注目すべきネットワークシステム、電子カルテを用いた病院、診療所、調剤薬局間医療ネットワークの事例、インターネット等による情報を活用した服薬指導
相談カウンター・相談室の設置、衛生管理の徹底、店舗内施設の充実、店舗外観
在宅医療・介護における訪問薬剤管理指導および薬の宅配の将来性、訪問服薬指導の経営的側面、中小調剤薬局における取り組みの提案
あなたの薬局、どう見られているかご存知ですか?
中小企業診断士と薬剤師の視点から分析します!
ほとんどの患者さんは、何も言わずに去っていきます・・
1 アンケート調査(結果をクロス分析)
2 店舗訪問診断
期間 2か月~(アンケート開始から結果報告まで)
費用 20万円税別(調査費)+実費
*調査希望の薬局をぜひご紹介ください!!
お問い合わせ:医薬品等研究会 薬局WG 新田、椎名、山本
は じ め に
中小調剤薬局を取り巻く環境は、大きく変化している。
経済不況の影響により他の業種の小売店舗数が減少する中で、調剤薬局は行政の医薬分業推進策を受け、医療機関から出される処方箋枚数の伸びと伴に順調に店舗数を伸ばしてきた。特に医療機関の近くにある門前薬局は、応需医療機関との係りに大きく依存し業績を上げてきた。
しかし、状況は変わった。医薬分業推進の経済誘導は終わりを告げ、処方箋料などの引下げによる収益の悪化、長期投与(2~4週間分の多めの薬剤投与)による在庫額の増加と経営効率の低下、それに追い討ちをかけるようにドラッグストアや調剤薬局チェーンの出店攻勢による競合激化など厳しい状況に中小調剤薬局は直面している。今までのように漫然と調剤薬局は経営を行っていては、淘汰の波に呑み込まれる。それに気づき経費の削減や調剤業務の充実など的を得た改善に取り組んでいる調剤薬局も多い。しかしながら、長期展望に立ち根本的な経営改革を行っている調剤薬局は少ない。
厳しい状況を直視して、調剤薬局のあるべき姿を考えていくと茨の道ばかりではない。
日本は、これから高齢化社会を迎え、薬剤を使う薬物治療の機会はこれからも増加していく。
国民の意識も変わってきて、他人任せだった健康も自主的に管理する意識も芽生えてきている。 それに係るサプリメントや健康サービスの需要も増えている。調剤業務や薬剤の情報提供などの専門性の高い業務を行い、顧客から気軽に健康相談ができるなど調剤薬局ならではの強みもある。それらを生かす発想が中小調剤薬局には必要になってきている。その発想とは顧客志向のマーケティングの発想であり、標的顧客を明確にすることにより提供商品やサービス、店舗のイメージなども決まる。明確な経営戦略を持つことである。戦略を持つことにより長期的なビジョンの下、21世紀にも通用する調剤薬局経営ができるようになると確信する。私達は以下のことを提言する。
1. 顧客を待つ姿勢をなくし、顧客志向の経営戦略やストアコンセプトを確立する
2. 店舗のマネジメント力を強化して、業務効率を上げ収益性を向上させる
3. 顧客とのコミュニケーションを密にしてカウンセリングを行い顧客の満足度を高める
この提言が、中小調剤薬局に対して、希望に繋がり、具体的な支援策になれば、私達にとって何よりもの喜びであり、幸せである。
最後に、この調査・研究事業を進めていく上で、ご協力をしていただいた方々に紙面を借りて謝意を表します。
医薬品等研究会 調剤薬局研究グループ
21世紀の中小調剤薬局の経営戦略構想
第1章 経営環境と将来予測
第1章では、医薬分業の現状を概観するとともに、調剤薬局を取り巻く様々な環境変化要因とその影響について考察する。また、章の終わりで調剤市場の将来予測を行う。
1-1.医薬分業の動向
医薬分業とは、患者が医師の診察を受けた際に、医療機関で処方せんを発行して貰い、その処方せんに基づき薬局で医薬品を調剤してもらうことである。世界の各国ではほとんどがこの医薬分業制度を採用しているが、我が国においては古くから医師が投薬する慣習があり、なかなか普及しなかった。しかし、分業元年とも言える1974(昭和49)年頃から徐々に増え始め、その後の国の様々な分業推進策もあり、近年は加速度的な進展を見せている。
日本薬剤師会が公表するデータによると、2001(平成13)年度の医薬分業率(処方せん受取率)は44.5%で前年より5ポイント増となっている(図表1-1)。直近2002(平成14)年8月では47.1%までさらに上昇、都道府県別では、秋田県69.4%、佐賀県65.2%、神奈川県63.27%、東京都59.8%、沖縄県58.8%が高く、20%未満の県は福井県14.7%のみとなっている。
同様に、2001(平成13)年度の処方せん枚数は5億5959万5974枚となっており、ここ数年は分業率で5ポイント程度、処方せん枚数で5000万枚程度のペースで毎年増加している。
また、これに伴い調剤金額も増加の一途を辿っており、2001(平成13)年度の概算医療費では調剤医療費は3.3兆円と歯科医療費の2.6兆円を上回り、医療費総額30.4兆円の10.7%を占めるまでに至っている。
一方、この医薬分業の進展に伴い保険薬局数(保険医療機関からの処方せんを応需する調剤薬局)も一貫して増加を続けている。日本薬剤師会のデータによれば2001(平成13)年10月時点では45,489軒(対前年3.6%増)、請求薬局数(保険調剤を実施して、支払基金に調剤報酬の請求を行った薬局数)は40,120軒で、保険薬局数に占める請求薬局数の割合は88.2%となっている。
また、調剤は薬剤師の独占的業務のため、薬局が調剤を行うには薬剤師の存在が必須要件となるが、調剤薬局数の増加に伴い、薬局に従事する薬剤師数も2000(平成12)年現在約9万5000人で、最近2年間で1万3500人程度増加している(「2000年医師・歯科医師・薬剤師調査」より)。
分業元年の1974(昭和49)年度の処方せん枚数730万枚、調剤報酬金額127億円からみると、この30年間で処方せん枚数は82倍、金額は241倍にまで膨れ上がったことになる。一体いつまでこのままの勢いが続くのかという疑問が生じるが、将来さらに分業が進展しても、抗がん剤など院外処方ができない医薬品や離島・僻地など調剤薬局が無い地域があるため、完全分業率と言われる80%、処方せん枚数にして10億枚、調剤市場規模5兆円が最上限と考えられている。
1-2.転換期を迎えている医薬分業
以上のように、近年の医薬分業は「分業バブル」と呼べる異常とも思えるような速度で進展して来た。しかし、分業元年から30年を迎えた今、大きなターニングポイントを迎えようとしている。その大きな転換とは、「行政の分業推進策の廃止」である。
今まで国は一貫して医薬分業を推進するという政策をとってきた。医薬分業の利点としては、図表1-2のようなものがあるが、要約すると診察(医師)と調剤(薬剤師)をする職能を分離することにより、患者に対しより安全で確実な薬物療法を提供することがその目的である。また、これ以外に医師の薬価差追求を目的とした薬漬け医療を防ぎ、医療費を抑制するとの狙いもある。
図表1-2 医薬分業の利点
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「かかりつけ薬局」において薬歴管理を行うことにより、複数診療科受診による重複投薬、相互作用の有無の確認などができ、薬物療法の有効性・安全性が向上すること
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薬の効果、副作用、用法などについて薬剤師が、処方した医師・歯科医師と連携して、患者に説明(服薬指導)することにより、患者の薬に対する理解が深まり、調剤された薬を用法どおり服用することが期待でき、薬物療法の有効性、安全性が向上すること
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処方せんを患者に交付することにより、患者自身が服用している薬について知ることができること
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使用したい医薬品が手元になくとも、患者に必要な医薬品を医師・歯科医師が自由に処方できること
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病院などにおいて、患者が薬を受け取るまでの待ち時間の短縮が期待できること
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医師・歯科医師が医薬品の購入、保管、管理など、薬に関する業務が軽減し、本来の業務である診断、治療に専念できること
資料:平成14年版厚生労働白書を一部改変
このため、診療報酬面で経済的なインセンティブを付与することにより、医薬分業が行われるよう誘導してきた。また、薬局を管轄する厚生労働省医薬局も、分業推進のために予算を組んで各種の補助事業も実施してきたが、そのいずれもが、平成14年度に実質的に廃止された。
その最大の要因は、果たして医薬分業は国民にとってメリットがあるのかが問われ始めているからである。具体的には、1.患者にとって二度手間(医療機関と調剤薬局の2箇所に行き、受付や料金を支払う必要がある)、2.割高感(医療機関で投薬してもらう方が自己負担は少なくて済む)、3.患者にとってメリットが実感できない(PTPシートを切って薬袋に入れるだけの調剤なら誰でもできるという患者の声や、調剤薬局での応対への不満の増加)、などの理由である。
また、高齢化の進展による老人医療費を中心とした医療費の膨張と経済成長の低迷により医療保険財源が逼迫している。そのため、国は様々な医療費抑制策を実施しているが、調剤医療費だけが突出して伸張を続けており、分業率も50%に達しようとしている現在、これ以上経済的なインセンティブを付与してまでも分業を推進する必要性は、もはや無くなったとの判断もその背景にある。
さらに、今年になって薬剤師以外の薬局従事者による無資格調剤や意図的な用量の変更による患者の死亡事故、処方せん記載の医薬品の意図的な変更など、調剤薬局に対する国民の信頼を根底から揺るがすような内容の調剤過誤事件が相次いでおり、今後さらに医薬分業に対し厳しい視線が向けられていくことは確実である。
1-3.調剤市場をめぐる外部環境
今までは、調剤薬局は医薬分業推進という大きな追い風に乗って、さしたる経営戦略がなくとも安定した経営が保障されて来た。また、医薬分業の急速な進展に対応するため、調剤薬局側は急ピッチで新規出店を行い、多店舗展開・チェーン化を進めてきたように、調剤薬局の主たる経営課題は「量の拡大」であった。しかし、平成14年版厚生労働白書の「今後は、国民がメリットを実感できるような質の高い分業を進めていく必要がある」との記載の通り、国の分業に対する政策は「量の拡大」から「質の向上」へと大きく方向転換した。
そのため、今後、調剤薬局においては、「質の向上」を経営の中心課題と捉え、現在の調剤市場を取り巻く環境変化を察知し、調剤薬局に求められる機能、患者及び国民のニーズに的確に対応していくという経営姿勢が求められる。
以下に、調剤市場を取り巻く主な環境変化要因と調剤薬局への影響について項目別に考察する。